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「遺愛集」 :: 2018/09/10(Mon)

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島秋人 「遺愛集」 (東京美術選書)

島秋人(本名 中村覚)は子どもの頃から病弱で様々な障害を持っていた。朝鮮に生まれ満州で育ち、家族と共に新潟に引き上げてきたが13歳の時に母を亡くし、障害を持つ彼は周りから馬鹿にされながら少年時代を過ごした。金を盗み、放浪し、東京に出て窃盗・強盗未遂で少年院にも入いる。20歳で出所したが放火事件を起こして服役し、その後、精神病院に入れられる。昭和34年4月5日、新潟県小地谷の郊外にある農家に押し入り、金を奪い主人に重傷を負わせ、その妻を殺した。

子どもの頃、構図がいいと褒めてくれた吉田教師に、「ただ一度だけ褒められたことが嬉しかった」と言う内容の手紙を刑務所から送ったことがきっかけで吉田夫人との交流が始まる。夫人は彼に短歌を詠むことを進め本を送ったり手紙で詠み方を教えたりするうちに、彼も短歌に惹かれ作品をどんどん生み出して行った。新聞の歌壇に投稿するまでになり、毎日歌壇の選者をしていた歌人の窪田空穂に選歌してもらってからは窪田空穂を師と仰ぎ、作った歌を送って指導を受けたり手紙のやり取りをするようになった。

「(前略)知能指数のひくい、精神病院にも入院もし、のうまく炎もやって、学校を出てより死刑囚となるまでは僕の内側の「もの」を知らなかったのを短歌と多くの人の心とによって知り人生はどんな生き方であっても幸せがあるのだと思い、被害者のみたまにも心よりお詫びをし、つぐないを受ける心を得、現在では人間として心の幸を深く知り得たことをよろこぶのです。(後略)」(38年6月の窪田空穂宛ての手紙)



死刑囚となり受刑を待つ身になって、やっと人から温かく包まれることを知った彼の心は少しずつほぐれて行き、作歌する中で「生」を愛おしむ気持ちを得たかのようだ。恩師の妻、差し入れを続け長い間彼を励まし続けた前坂和子、のちに義母となった千葉てる子、手紙で愛を誓い合った鈴木和子。師と仰いだ窪田空穂は、手作りの弁当を差し入れに刑務所を訪れたこともある。(この差し入れは許可されず帰り道で空穂が自分で食べたと秋人に書き送っている。)「遺愛集」の序を書くことも承諾した。

 たまはりし処刑日までのいのちなり心素直に生きねばならぬ
 死刑囚の身となりて知れる幸なりき日日に忘れず生きむと思ふ


母を慕い、慕いながらも自分が殺してしまった女性も子供たちの母であったことに深く罪を詫びる。

 朝売りの静かに菊に雨降りぬ
 お母あさんと呼んでみた月の鉄窓(まど)
 深みゆく罪の孤独や灯蛾狂ふ


差し入れられた花を愛で、独房の床を這う小さな虫に優しく触れる。鉄網の向こうに一瞬見えた母親を追う子どもに自分の幼い日を重ね、幸せだと思う日、幸せなどと感じてはいけないと打ち消す日、嬉しい日さびしく思う日、死刑になる日を待つ辛さ。島秋人が死刑囚となってから詠んだ歌に、彼の短い人生の、最後の5年5ヶ月で得た、人として扱われた喜びと悔いと悲しみと優しさと感謝、すべての感情が込められている。

実地検証のために新潟へ護送された日、
 車窓過ぐる故郷見をれば幾度もガラス拭きくるる老いし看守は
何と優しい看守だろうか。罪を犯す前に彼に優しく接する人がいたら・・・。
 君が植ゑた朝顔がよく咲いたよと看守部長の便りとどきぬ

残りのページ数が少なくなってきて読者は死刑の日が近づいていることを知る。そして処刑の日。
長く文通を続けた前坂和子さんに残した手紙
「十一月二日朝
惜しいようなのにとうとう朝です
和子さん、さようなら。 秋人」



処刑寸前、東京拘置所所長の心の底に祈りの言葉を残して人生を閉じた。
「ねがわくは、精薄や貧しき子らも疎(うと)まれず、幼きころよりこの人々に、正しき導きと神の恵みが与えられ、わたくし如き愚かな者の死の後は死刑が廃(はい)されても、犯罪なき世の中がうち建てられますように。わたくしにもまして辛き立場にある人々の上にみ恵みあらんことを。主イエス・キリストのみ名により アーメン」(参照:死刑囚 日日の改心―島 秋人(しま あきと)―)






死刑制度をちゃんと考えなくてはと思ったきっかけは、もっともっと深く追求して背景や原因を探る必要があると言われていたオウム真理教が起こした一連の事件で死刑囚となった信者13人全てが、同じ月のうちに処刑されてしまったという衝撃からだった。二日に分けて7人、6人を一気に処刑する異常さ。ゾッとするような出来事だった。


そんな時、偶然に「極刑」と云う本に出会い、続けて島秋人という死刑囚の短歌集「遺愛集」をcocomeritaさんのブログで知った。

犯罪はなぜ起こるのだろうか。殺人を犯すに至るまでの生い立ち、家族、学校、友だち、教師、環境・・・数え上げればきりがない・・・それは社会の在り方にも及ぶ。島秋人の歌集は、昭和三十五年から四十二年まで順を追って、彼が中学校の時に褒めてくれた吉田教師や短歌の師・窪田空穂へ宛てた手紙、差し入れをし続けてくれた前坂和子さん、義母となった千葉てる子さん、短歌への道を教えてくれた吉田絢子さん(吉田教師の妻)へ書き送った手紙と詠んだ歌を年ごとにまとめるという形になっている。これらの人びとがどんなに強く彼の最後の7年(死刑確定後5年5ヶ月)を支えたかと想うと感慨深い。

「精薄や貧しき子らも疎(うと)まれず、幼きころよりこの人々に、正しき導きと神の恵みが与えられ、死刑が廃(はい)されても、犯罪なき世の中がうち建てられますように・・・」という島秋人がクリスチャンの立場で残した祈りと、「福祉制度と更生への努力が、犯罪をおさえるという」理解が国民の寛容の背景にあると云うノルウェーの元法務大臣の言葉が、この社会の在るべき姿の一端を示しているのではないか。死刑制度を廃止した州で殺人事件が増えたという報告はないとスコット・トゥローは「極刑」の中で言い切っている。






icon九条守れ

さいたま市の女性の句。
教育委員会は公民館報への掲載を拒否しています。


その他にも「9条」取り扱い拒否が様々な形で広がっています。

「九条俳句」市民応援団ができました。



沖縄県知事選が終わるまで、連帯の気持ちを込めてバナーをここに。

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こちらもアマゾンしました。
  1. 2018/09/12(Wed) 10:44:02 |
  2. URL |
  3. 佐平次 #-
  4. [ 編集 ]

∮佐平次さん
古い本だから絶版になっていませんでしたか?
もうお手元に?
  1. 2018/09/12(Wed) 20:08:24 |
  2. URL |
  3. テイク25 #NNZ72WTo
  4. [ 編集 ]

Ciao テイク25さん
読めば読むほど 、彼の事を知れば知るほど 悲しい思いが蘇ります
それは、今開こうとしている青い固い蕾を、実を結んだ青くて小さいトマトを間違って手折ってしまった、その時に感じるどうしようもない激しい後悔に似ています。
蓮の花が泥から顔を出すように、人がこんなところから何も生まれるわけがないと、ジャッジしたところから、より美しくより強いものが 頭をもたげる事が、少なからず有ると思っています。
それは、過ちを犯しても、それを深く後悔し、内省できた時、人は生まれ変われる事が出来ると信じているからです。
その生まれ変わろうとしているものに その成長を促す機会が与えられなかった 事を激しく残念に思い、与えようとしない社会の幼さに身震いします。
  1. 2018/09/14(Fri) 06:51:13 |
  2. URL |
  3. Junko #6ZS2/17k
  4. [ 編集 ]

続き
ノルウェーなどの北欧では、知的障がいのある方たちを、病院に閉じ込めることによって、社会から排除するのではなく、彼らに市内のアパートで共同生活をさせ、一市民として独立して暮らせる事が出来るように指導します。

排除という行為は、始めたら終わりがない、多分 全員を削除するまで 終わる事なく続く、忌まわしい行為であり、排除する人間は最終的にはその人自身が排除される側になるであろうと私は思っています。
そして私は排除する社会より、受容し受け入れる社会にその健全さと成熟さを見出します。
多分日本はこれから何十年かかっても、違いをまず受け入れ、導く、そういう受容できる社会にはならないであろうと思います。
  1. 2018/09/14(Fri) 06:58:37 |
  2. URL |
  3. Junko #6ZS2/17k
  4. [ 編集 ]

∮Junkoさん
人は一度罪を犯したら生まれ変われないのだと誰が断言できるでしょう。悔い改めて罪を心から詫びて新しく生まれ変わりたいともがくのが人間の本来の姿のような気がします。島秋人のように障害を持ち周りに馴染めない人間の目の前でドアを閉めてしまう社会では罪が生み出されてしまうのも当然。お互いに認め合う社会、受け入れ合う社会、公平に生きていける社会は人間が幸せに生きていく最低限の条件です。幸せであれば罪を犯すこともないのでは・・・と。

どんな人であれ社会から排除されていい人間なんていません。Junkoさんの考えに同感です。
  1. 2018/09/14(Fri) 10:27:27 |
  2. URL |
  3. テイク25 #NNZ72WTo
  4. [ 編集 ]

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