Joy Luck Club

日記帖・雑記帖・ぼやきノート・備忘録・・・




「ある小さなスズメの記録」 :: 2017/02/22(Wed)

小学校4年生だったか5年生だったか、ベランダに弱ったスズメの雛を見つけた。
換気用の桟に作られた巣から落っこちたようだ。(或いは落されたか。)
ダンボールに入れて脱脂綿に水を浸して嘴を開いて水を垂らした。
意識はあったようだからちゃんと反応したのだけれど、さてさて何を食べるんだろうスズメって。
母と姉妹弟が大慌てで考えて、一番に思いついたのがお米。
米粒は固くて食べないので、ご飯粒を潰して少しだけ口に入れたら、結構旺盛に食べたのだ。
それからはどんどん元気になって、チュンコという名前を呼ぶとダンボール箱の底から見上げるようになった。

箱から出してやると部屋の中を飛び、人間に近づくようになった。
そろそろ外の世界に返してやる頃だと母に言われて庭に連れ出して地面に置いてみたけれど、
飛び立つどころか人間にくっついて自分も一緒に家の中に入って来てしまう。
こちらも懐いたスズメ、チュンコが可愛くて手放せなくなってしまっていた。

そんな風にして共同生活が始まり、
夜だけ段ボールの箱に入れて、あとは部屋の中に放した。
子どもが学校に行っている間は母と遊んでいたのだろう。

宿題をやっていると部屋の隅からノートの端に飛んで来て、
鉛筆につかまろうとしたり、肩にとまったりした。
ほんとうによく懐いて可愛かった。


一年以上一緒に居たけれど、ある日学校から帰ったらダンボール箱の底で冷たくなっていた。
母が部屋の掃除をしようと段ボール箱ごと庭に出していたら、猫が来てやられてしまったらしい。
あの時は姉妹弟三人が泣いた泣いた。




february11.jpg


19世紀末、イギリスに生まれたピアニストのクレア・キップスが保護したスズメの雛を慈しみ育て、家族として友として一緒に暮らした12年7カ月余りの記録だ。小さなスズメはクラレンスと名付けられたけれど「坊や」と呼ぶときにだけ返事をした。時は第二次世界大戦中、空襲が激しくなった頃で、クレア・キップスも市民防衛隊員として活動していた。小さなスズメはキップスに連れられて、戦時下で暗くなりがちな子供たちや大人たちを訪ね、芸を披露して人々を慰め、町の人気者になった。ピアノの練習をしていると、スズメはクレアの手に乗ったり鍵盤の上をを歩いたりして、やがてはピアノの音に合わせて歌うようにもなった。

クラレンスは日本に生息するスズメとは異なるイエスズメで寿命は3年ほどだという。12年以上も生活を共にした友を失ったクレア・キップスの哀しみや寂しさはどんなにか深かっただろう。彼女の友人である詩人のウォルター・デ・ラ・メラもスズメとの生活ぶりを詳しく記しておくようにと勧めてくれた人たちの一人で、この本が出版されたとき、『人は・・・このような言葉を持たぬちっぽけな羽毛の塊が』心の底からの愛を持てるのだろうかと自問自答してしまうだろう。クラレンスは神の言葉を伝える大天使ガブリエルでもあると、批評文を書いた。クレア・キップスと小さなスズメとの日々が飾り気のない文章で記録されている。

原題の「Sold for a Farthing 」は、本書で引用されているマタイ伝十章二十九節『スズメは二羽まとめて一銭で売っているほどのものである。しかし、そういうスズメの一羽ですら、主の許しなしでは、地に落ちることもかなわないではないか。』からきているという。
「この箇所は、聖書のページの中で、それぞれ個性をもった被造物が、創造主にとってどんな価値を持っているかを、驚くほど具体的に明らかにしている啓示の部分である。」(124ページ)
「日々の読書」と題する写真には小さな本のそのページを静かに見つめている年老いたクラレンスが写っていて、キップスは「これはいわば彼の短い説教であり、懐疑と不安に満ちた人類への別れのメッセージとも思われる。」と書く。

ルカ伝十二章六節(五羽のすずめは二アサリオンで売られているではないか。しかも、その一羽も神のみまえで忘れられてはいない。)が出典だと梨木果歩さんが語ったインタビュー記事があるらしいが見つからなかった。

どちらにしてもSold for a Farthingとは、スズメのように小さな命にも貴重な価値がある、と云うことなのだろう。この本の内容を充分に表している。
2月21日読了





Sold for a Farthing 
ある小さなスズメの記録 
人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯

クレア・キップス
梨木果歩[訳]

文藝春秋







icon九条守れ

さいたま市の女性の句。
教育委員会は公民館報への掲載を拒否しています。


その他にも「9条」取り扱い拒否が様々な形で広がっています。

「九条俳句」市民応援団ができました。










クレア・キップスや、彼女が「あなたの励ましなしには、本書は生まれなかった。」と献辞を宣べているウォルター・デ・ラ・メアを知らない。訳者の梨木果歩が、デ・ラ・メアは英国の詩人で幻想的な作風の物語作家であるとあとがきで紹介しながら、『子ども時代を流れている時間に人間存在の本質がある』と考えるような作家だと表現している。太字の部分にすっかり魅了されてしまった。
子ども時代を流れている時間に人間存在の本質がある、そうかも知れない。



flowers
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comment

感動して読みました。
それなのにもう忘れていたのを思い出させてくださってありがとう。TBさせていただきます。
  1. 2017/02/24(Fri) 10:59:55 |
  2. URL |
  3. 佐平次 #-
  4. [ 編集 ]

∮佐平次さん
そうでしたか。
年老いてからも最後まで一生懸命生きようとする姿に心打たれました。命を全うして「大天使ガブリエル」の役目を立派に果たして旅立つクラレンスと友として生活を共にしたキップスのそれまでの日々が淡々と描かれていていい記録ですね。

トラックバックしていただいてありがとうございます。
  1. 2017/02/24(Fri) 16:12:42 |
  2. URL |
  3. テイク25 #NNZ72WTo
  4. [ 編集 ]

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年の始めに読みたい本 クレア・キップス「ある小さなスズメの記録」

スズメの雛を拾って宝物を見つけたように興奮、母にせがんで紙の箱を用意して綿を敷いた上に、米粒を撒いたり、水を割り箸から飲ませようとしたり、、手のひらに包むと暖かくて、ワクワクして寝たのに、翌朝には冷たくなっていた。誰しもそんな経験があるのではなかろうか。この実話(副題は「人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯」)を書いたキップス夫人は50歳の時に瀕死のスズメの雛を拾って、途方もない...
  1. 2017/02/24(Fri) 10:58:40 |
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